【感想】羽生山へび子先生「晴れときどき、わかば荘 あらあら」

駅から3分風呂トイレ付き。女装ママが管理するアパート『わかば荘』。
101号室の千葉晃太は悩んでいた。男に恋をしたことに。
そこで、マブダチの翔に背中を押され告白を決意するのだが…!?
わかば荘に暮らす男たちの、笑いあり涙あり、すったもんだの恋愛事情を羽生山へび子がお魅せします!

https://www.bs-garden.com/feature/haretokidokiwakaba/


収録作品

101号室 千葉晃太~マイフェアなんとか~前編
101号室 千葉晃太~マイフェアなんとか~後編
103号室 長崎恵一~ムーンリバーと俺~前編
103号室 長崎恵一~ムーンリバーと俺~後編
102号室 幕之内大輔~青い影~前編
102号室 幕之内大輔~青い影~後編
ごはんですよ 前編
ごはんですよ 後編
あとがき
ところにより、天気雨


Contents

○酸いも甘いも詰まった、人生物語

名・作。物語の運び方が素晴らしく、展開が神がかっています。ページを進むにつれて、ほんの序盤から既にもうドキドキしてしまう。
それくらい、人間模様がドラマチックに描かれています。

皆ぞれぞれ学生だったり仕事をしていたり、別々の環境で過ごしている。そんな彼らの日常が わかば荘に集まり、温かくも刺激的な日々を折りなしていきます。



○わかば荘、愉快すぎる登場人物たち

わかば荘に現れる人々をご紹介します。


晃太…こだわりのリーゼントヘアを携えた、なんちゃってヤンキー高校生。色白細身。家庭の事情もありわかば荘で一人暮らしをする。

親友の翔に、最近気になる人がいることを告げる。


…硬派で少々いかつめ高校生。晃太と仲が良く、よくわかば荘を訪れる。

晃太の悩みを親身になって聞いたりと、晃太にとって頼れる存在。


長崎恵一(ケイ)…わかば荘住み、車会社勤務。営業マンのはずなのに、なぜか車の修理にばかり駆り出される。休日だって働く。

辛くなった時思いだすのは、学生時代語り合った清川のことで……。


清川誠司(キヨ)…長崎と同郷で、友人。車屋で働く。数年ぶりに長崎の元へと突然現れた。


大輔…わかば荘内ゴミ屋敷の住人。元天才ジョッキーで、現在は見る影もない。だらだらと過ごす毎日。一条は昔の競争仲間であり後輩。


一条…大輔に憧れる、現役ジョッキー。


ママ…わかば荘の管理人。一階の小料理店を営んでおり、住人たちがご飯を食べに集まってくる。

住人みんなのママ。



以下 「ごはんですよ 前編・後編」に登場する面々になります。


松本…奥さんに逃げられ、以降小さい息子と二人暮らしの男やもめ。木工所勤務。


はる…同じく木工所に勤務する若者。ある想いをひた隠しにして生きている。


まさる…おかっぱ頭で可愛らしい、松本の一人息子。はるによく懐いている。


https://twitter.com/snakeship555/status/984692132626579463
羽生山へび子先生Twitter


○ストーリー

○○荘、のように複数人が暮らしているアパートのお話し、というのは様々ありますが、本作は皆抜群に キャラ立ちが良いです。読んでいて楽しい豊かな物語を紡ぐ人たちしか出て来ません。お題ごとにガラッと背景も人物も立場も変わるので、飽きの来ない作品集です。同じ住居ということで、それぞれがどこかで繋がっているのも面白いです。

各章ごとのあらすじや見どころをご紹介。


101号室 千葉晃太~マイフェアなんとか~前編・後編

なりきりヤンキー晃太には、最近悩んでいることがある。それは同じ学年の真一くんがやけに可愛く見えてしまう、というもの。そのことを翔に伝えると、翔は晃太を応援するべく積極的に協力をするのだった。

中々衝撃的な髪型で登場した彼は、わかば荘にて一人暮らしをする高校生、晃太。彼の悩みに真剣に、時には冗談も交えつつ夜通し相談に乗るのは親友の翔。

それはそれは優しい翔。そして頑張っていきがっている晃太が可愛らしいく、いじらしい。恋をする少年と、恋路を応援するもう一人の少年。純粋な想いとは裏腹に、同性が相手の恋であるということが、壁となり立ちはだかる。


103号室 長崎恵一~ムーンリバーと俺~前編・後編

地元を離れ、一人暮らしの会社員長崎。営業なのに修理仕事、しかも文句や揶揄の言葉を投げられながら……という日々に疲労困憊していた。そんな時、かつて夢を語り合った親友清川が突如現れて。

101号室の学生篇からガラッと変わって、今度は社会人二人のお話。仕事の生々しい辛さが描かれており、見ていてウッとなります。

あの頃語り合った夢と、現実の今はかけ離れたものとなってしまった。それでも、語り合った仲間が変わらないでいる。その素晴らしさが感動的に描かれています。切ない気持ちにもなる章です。


102号室 幕之内大輔~青い影~前編・後編

暴力沙汰でジョッキーを引退しバイト生活を送る大輔の元に、現役ジョッキーの誠が訪ねてくる。最初は金を出させたりとやりたい放題に振る舞う大輔だったが、次第に誠へ、ジョッキーとしてのアドバイスをし始める。

かつては王子様のようだった大輔の、転落後の現在。部屋はゴミ屋敷で、ママから頼まれていた庭の掃除もしない。家賃の支払いも滞納する。そんなダメ人間と化した大輔の元へ現れたのが、かつて共に戦ってきた後輩の一条誠だった。 足繁く通う誠の目的とは一体何なのか。

冒頭で「晃太JK紹介しろよ」と戯言を言っていった彼がここで登場です。決してぶれない安定したキャラ。


ごはんですよ 前編・後編

妻に逃げられてからというもの、息子のまさると二人で暮らす松本。週末になると同じ木工所で勤務するはるが訪ねてきては、三人で一緒に過ごしている。男手一つで育児する松本を気にして、見合い話を周りから持ちかけられることも珍しくなく、またしても話しを貰う松本だったが。

「松本さんは良い男で、まさるはかわいい」。そう思うはるは、見合い話というワードに少々敏感なようで。

素敵な三人の 、心温まるとってもいいお話です。


ところにより、天気雨

わかば荘の面々の、その後のエピソードのようなもの。彼らの恋模様が描かれており、幸せな気持ちで最後まで読むことができます。



○作風について

作画に勢いがあり、絵全体の纏まりがあって読みやすく描かれています。一冊まるごと仕上がっています。

特に、大切なシーンでの人物への光の当て方が情熱的で、彼らの抱えている事情や置かれた環境など、そういった背景により深みが増してより感動的なものとなります。

またムードある演出や、そこまでの運び方があまりにも上手すぎて、ドキドキを超えてぞわぞわします。最高です。


背景などの書き込みがとても細かく、紙面が埋め尽くされています。ぎっちり。見開きページの中に、余すことなく情報がいっぱい。

椀飯振舞の贅沢なご褒美、みたいな一冊です。

一章ごと読み進める度に「濃い時間を過ごしたなぁ」と思わせてくれる作品でした。



○晴れときどき、わかば荘 あらあら

彼らの日常と、人生の革命的瞬間がギュッと詰まった本作。読み応えたっぷりです。どのお話にも何か考えさせられるものがあり、つい最近の自分はどうだろうか、と振り返ってみたくなります。

忙しい日々に、彼らのことを思い出す時間をくれます。大変温かな気持ちになり、そしてそれが持続する本作。超おすすめです。


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